ゆきて帰らず物語


これは、わたしの知っている安房直子とは、ちょっと違った感じの物語集です。
喪失感とか、どうしようもないあこがれの気持ちとか、そういったところは、安房直子なのです。それらの感情や、そこに映し出される異界をガラスごしに眺めている印象があるのが、わたしの知っている安房直子の童話なのです。
でも、この本に書かれている作品では、実際に、その世界にアクセスしてしまう。しかも、帰ってこれなくなっちゃうのです。
そして、その話が、教訓めいていないだけに(多少は「欲張りすぎ」とかあるのですが)、よけいに淡々としていてこわいです。


鶴の家


死んだ人の数だけ、お皿の鶴が増えていきます。
これは、けっこう怖いです。


最終的には、ハッピーエンドなのですが、なんか、怖さは後に残ります。


というか、ハッピーエンドはあんまり後に残らなくて、怖さはあとにひいている感じです。


日暮れの海の物語


さて、カメから逃れることができたのですが、


「わたしはかめを裏切った……。」


と、心に思い続けながら生きていくのが幸せであったかどうか。


長い灰色のスカート


あっちにいってしまうのは、怖いとともになんか甘美な感じもします。
これは、この本に収められていく作品のほとんどに共通する雰囲気です。


神隠しにあいやすい子に対するあこがれが、自分のなかにあるようです。


木の葉の魚


ちょと、金子みすずの詩を思い出してしまいました。
こうやって、網にかかる大量の魚たちが、みんなこんな物語をもっているとしたら……。怖いですねぇ。


奥さまの耳飾り


「魔法というのは、悲しいものだ。」


どこかに、この考えがつねに潜んでいるのかもしれません。
そして、恋愛も、魔法のようなものなのでしょうか。


野の音


人さらいの話です。
そして、なぜか、さらわれたくなるような弱さ、ここではないところに生きたくなる弱さを人はもっているんだと感じさせられます。


青い糸


これも、誘われて、行って、帰ってこないお話です。
女の子が、男の人を連れて行きます。


男の方が、さそわれやすいのかもしれません。


火影の夢


これも、女の子が、男の人を連れていく話です。
幸せだった過去に戻ったのだから、もしかすると幸せかもしれない。


そう感じながらも、なんか、ゾッとするような印象も残るのは、なぜなんでしょう。


野の果ての国


悪夢のみせた幻でしょうか。
それとも、本当にあったことでしょうか。


それは、多分それは、それぞれの読者の判断ということになるのでしょう。


銀のくじゃく


夢なんか追いかけるから…。
でも、夢を追いかけずにはいられない。
それが、滅びにつながっていても。


そんなお話です。